岩手県初の在宅専門薬局として開局した岩手ホームケア薬局。
その代表を務めるのが、株式会社マリーナメディカルグループ代表取締役の加畑智聡です。
岩手医科大学薬学部を卒業後、東京の在宅専門薬局でゼロからの店舗立ち上げ、管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャーを経験。
その後、地元である岩手県に戻り、在宅医療に特化した薬局を開局しました。
今回は、なぜ在宅医療に惹かれたのか、なぜ地方で在宅専門薬局に挑戦するのか、そしてこれからどのような薬局を目指しているのかを、インタビュー形式でお伝えします。
まずは自己紹介をお願いします。
岩手ホームケア薬局を運営しております、株式会社マリーナメディカルグループ代表取締役の加畑智聡です。
岩手医科大学薬学部を卒業後、もともと興味のあった在宅医療分野に特化した東京の在宅専門薬局へ入社しました。
そこでは、新店舗のゼロからの立ち上げ、管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャーを経験させていただきました。
その後、地元である岩手県に戻り、岩手県初となる在宅専門薬局として岩手ホームケア薬局を開局しました。
現在は在宅患者様、施設入居者様を中心に、訪問薬剤管理、医療用麻薬、輸液、無菌調製、各種ポンプ対応、24時間365日対応を行っています。
また、岩手医科大学薬学部 臨床薬学講座 地域医療薬学分野の非常勤講師として、在宅医療の講義も担当しています。
来年度も引き続き講義を担当させていただく予定です。
さらに2027年からは、岩手医科大学と連携し、病院薬剤師向けの在宅医療研修の受け入れも予定しています。
薬学生だけではなく、病院薬剤師が地域や在宅医療を学ぶ機会づくりにも関わっていきたいと考えています。

学生時代から在宅医療に興味があったのですか。
はい。学生時代からずっと疑問に思っていたことがあります。
「なぜ地元岩手を含めた地方部では、在宅専門薬局が普及していないのだろう」
病院はあります。
訪問診療もあります。
訪問看護もあります。
介護事業所もあります。
でも、薬局だけは外来調剤の延長線上で在宅を行っているケースが多く、在宅医療に完全に特化した薬局はほとんどありませんでした。
もちろん、地域の調剤薬局が在宅を支えてきた歴史はとても大切です。
ただ、これから高齢化がさらに進み、自宅や施設で最期まで過ごしたい方が増えていく中で、薬局にも在宅医療へ本気で向き合う専門性が必要になるのではないかと感じていました。
なぜ卒業後すぐに在宅専門薬局へ進んだのでしょうか。
地元岩手で在宅専門薬局を作りたいという思いがあったからです。
ただ、いきなり岩手で始めても、本物の在宅医療を知らなければ意味がありません。
だからまずは、在宅医療が進んでいる東京で、在宅専門薬局の現場を経験しようと思いました。
東京の在宅専門薬局に入社した時、私は最初から独立するつもりで入りました。
入社時には、「1年後には独立して、地元岩手で初の在宅専門薬局を作ります」と豪語していました。
今思えばかなり生意気だったと思います。
でも、本気でした。その1年間で吸収できるものはすべて吸収して、必ず岩手に持ち帰ろうと思っていました。
東京ではどのような経験をしましたか。
本当に多くの経験をさせていただきました。
新店舗のゼロからの立ち上げ、管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャー。
薬剤師としての現場業務だけでなく、店舗運営、人材育成、営業、多職種連携、採用、在宅オペレーション構築まで経験しました。
在宅医療の現場では、終末期医療、医療用麻薬、PCAポンプ、輸液、無菌調製、緊急対応など、外来調剤だけではなかなか経験できない場面が日常的にありました。教科書では学べないことばかりでした。
患者様のご自宅に伺うと、薬局の窓口では絶対に見えない現実があります。
薬が何週間分も残っている。
薬を飲みたいけれど、うまく飲めない。
痛みを我慢している。
家族が限界まで頑張っている。
訪問看護師が薬の管理で困っている。
医師が薬剤師の視点を求めている。
在宅医療は、薬を届ける仕事ではありません。患者様の生活そのものを支える仕事だと強く感じました。
東京で経験を積んだことで、地方で在宅専門薬局を作る難しさも見えたのではないでしょうか。
むしろ、東京で働いたからこそ、地方で難しい理由がよく分かりました。
地方は都市部と違って、患者様宅との物理的距離があります。
1件訪問するだけでも移動に時間がかかります。岩手は冬になれば雪道もあります。
人口密度も違います。採用も簡単ではありません。
在宅医療は、オペレーションも組織化も簡単ではありません。
さらに、在宅という分野はどうしても属人的になりやすい特徴があります。
薬剤師一人ひとりの経験や判断力、多職種との関係性に左右される部分が大きいからです。
そして利益構造を理解すればするほど、地方部で在宅専門薬局を利益化することの難しさも分かりました。
正直に言えば、経営だけを考えれば簡単な道ではありません。
でも、だからこそやる意味があると思いました。
難しいから誰もやらない。採算が合いにくいから普及しない。
でも誰かが先陣を切らなければ、地方部の地域医療は少しずつ衰退していく。
そこに自分の限られた人生の時間を使う価値があると思いました。
綺麗事かもしれません。でも、私はその綺麗事を本気でやりたいと思っています。
岩手で開局しようと決めた一番の理由は何ですか。
やはり地元だからです。岩手で生まれ、岩手医科大学で学ばせていただきました。
その地元で、これからの地域医療に必要とされる薬局を作りたいと思いました。
在宅医療に対応しているクリニックや病院、訪問看護ステーションは、24時間365日体制で患者様と向き合っています。
夜中でも患者様の状態が変われば対応します。
日曜祝日でも必要があれば動きます。
それなのに、薬局が本当の意味で24時間365日対応していないとしたら、在宅医療のチームとして不十分ではないか。
私はそう感じていました。
もちろん、「24時間対応」と掲げている薬局はあります。
でも、本当に夜中に電話が鳴った時、麻薬や輸液が必要になった時、患者様のもとへ動ける薬局がどれだけあるのか。
そこに在宅専門薬局の存在意義があると思っています。
実際に夜間や休日の対応はありますか。
あります。PCAポンプを使用している患者様の対応で夜間に動くこともあります。
急な疼痛悪化で、日曜祝日に医療用麻薬を配薬することもあります。
レスキューの使用回数が増えて、予定より早く薬がなくなりそうになることもあります。
退院当日に急いで薬剤を準備しなければならないこともあります。
こうした場面は、在宅医療では実際に起こります。
薬局の営業時間に合わせて、患者様の痛みや苦しさが待ってくれるわけではありません。
だからこそ、在宅専門薬局には24時間365日対応できる体制が必要です。
地域支援体制加算を取るためだけに在宅を行うのではありません。
本当に地域で生活する患者様を支えるために、在宅医療に向き合う必要があります。
岩手ホームケア薬局が大切にしていることは何ですか。
一番大切にしているのは、多職種連携です。在宅医療は薬剤師だけでは絶対に成り立ちません。
医師、訪問看護師、ケアマネジャー、介護士、施設職員、ご家族。
それぞれが同じ方向を向いた時に、初めて患者様を支えることができます。
私たちは、薬を届けて終わりの薬局ではありません。
訪問後の情報共有、医師への処方提案、訪問看護師との連携、ケアマネジャーへの報告、施設職員との運用相談。
必要があれば往診同行や担当者会議にも参加します。
薬剤師は、薬の専門家であると同時に、在宅医療チームの一員です。
患者様の生活の場に入る以上、薬だけを見ていれば良いわけではありません。
食事が取れているか。水分が取れているか。家族が疲弊していないか。
介護職員が困っていないか。薬が本人の口に入るところまで確認できているか。
そこまで見て初めて、在宅医療の薬剤師だと思っています。
印象に残っている患者様とのエピソードはありますか。
正直、一つには絞れません。
在宅医療の現場に出ていると、薬局の中では絶対に経験できない出来事が本当にたくさんあります。
中国人の患者様に、中国語を教えてもらいながら関わったことがあります。
最初は言葉がほとんど通じず、身振り手振りで何とか会話していました。
薬の説明も、表情や指差しを交えながら必死に伝えていました。
それが訪問を重ねるうちに、少しずつ言葉が分かるようになり、少しだけコミュニケーションが取れるようになった時は、本当に嬉しかったです。
薬剤師として薬を届けに行っているはずなのに、こちらの方が教えてもらっていることの方が多いと感じました。
もちろん、きれいな話ばかりではありません。
訪問先で靴を履こうとしたら、靴の中でゴキブリを踏んでいたこともあります。
患者様が目の前で突然倒れたこともあります。
遅くに訪問してしまい、患者様にものすごく怒られたこともあります。その時は正直かなり落ち込みました。
でも、在宅医療は患者様の生活の中に入らせていただく仕事です。こちらの都合だけで動いてはいけない。患者様には患者様の生活リズムがあり、大切にしている時間があります。そういう当たり前のことを、現場で何度も教えていただきました。
一方で、忘れられないほど嬉しかった出来事もたくさんあります。
終末期の患者様が「どうしてももう一度見たい」と話していた景色を、医療チーム全員で一緒に見に行けたことがあります。
医師、訪問看護師、ご家族と相談しながら、薬の調整や当日の体調確認を行いました。
その景色を見た時の患者様の表情は、今でも忘れられません。
薬剤師がここまで関わっていいのか。最初はそう思うこともありました。
でも、その方にとっては、痛みを抑えることも、薬を整えることも、その景色を見るために必要な支援でした。
在宅医療は、ただ命を延ばすだけではありません。その人が最期までその人らしく過ごすために、何ができるかを考える仕事だと思っています。
また、在宅医療の介入を経て、状態が安定し、社会復帰された方もいます。
最初は薬の管理も生活も不安定だった方が、少しずつ整っていき、最終的に在宅医療の支援を卒業していく。
在宅医療は、最期を支えるだけではありません。
もう一度生活を取り戻す支援でもあります。
その方が支援を必要としなくなった時、少し寂しさもありますが、それ以上に嬉しさがあります。
患者様から誕生日プレゼントをいただいたこともあります。
自分のことを覚えていてくださったことが、素直に嬉しかったです。
独立前に東京の薬局を離れる時には、患者様やご家族から「いなくなるのが寂しい」と泣いていただいたこともありました。
薬剤師としてここまで人の生活に関われるのかと、改めて感じた瞬間でした。
在宅医療では、感謝される機会が本当に多いです。
「来てくれて助かりました」
「薬のことを相談できて安心しました」
「家で過ごせてよかったです」
「あなたが来てくれると安心します」
そう言っていただけることがあります。
もちろん、大変なことも多いです。
夜間や休日に対応することもあります。
予定通りに進まないこともあります。
怒られることもあります。
悔しい思いをすることもあります。
でも、それ以上に、患者様やご家族の人生の一部に関わらせていただく瞬間があります。
薬剤師という仕事は、薬局の中だけでは終わりません。
在宅医療の現場に出ると、薬剤師は患者様の生活に入り、人生の節目に立ち会うことがあります。
最期の時間、新しい生活の始まり、社会復帰、家族との時間、夢だった景色。
そうした場面に、薬剤師が関われる。
これほどやりがいのある仕事はないと思っています。
だから私は、地方にも在宅専門薬局が必要だと本気で思っています。
薬剤師が地域に出ることで、救える不安があります。
支えられる生活があります。守れる時間があります。
その可能性を、岩手で証明していきたいと思っています。

薬剤師という仕事について、どのように考えていますか。
私は、薬剤師はもっと可能性のある仕事だと思っています。
薬剤師は、薬の専門家です。本来、非常に職能が高く、プロフェッショナルな職業です。
それなのに、現場ではどこか仕事を楽しめていない薬剤師や、自分の可能性に気づけていない薬剤師も少なくないと感じます。
もちろん、調剤薬局の中で働くことも大切です。
病院で専門性を磨くことも大切です。
ただ、在宅医療には、薬剤師がもっと前に出て活躍できる場面がたくさんあります。
医師と処方について話す。
訪問看護師と患者様の状態を共有する。
ケアマネジャーと生活課題を考える。
家族の不安を聞く。
患者様の最期の時間に関わる。
在宅専門薬局は、病院薬剤師の専門性と、薬局薬剤師の地域との近さのちょうど間にある存在だと思っています。
臨床もある。
生活もある。
経営もある。
多職種連携もある。
だから面白いんです。
もっと楽しそうに仕事をする薬剤師を増やしたい。
これからの時代の薬剤師が「薬剤師ってこんなに面白いんだ」と思える場所を作りたい。
それも、岩手ホームケア薬局を作った大きな理由の一つです。
岩手医科大学での教育活動について教えてください。
現在、岩手医科大学薬学部 臨床薬学講座 地域医療薬学分野の非常勤講師として、在宅医療の講義を担当しています。

学生の皆さんには、在宅医療の制度だけではなく、現場のリアルを伝えるようにしています。
教科書には載っていないこと。
患者様の家で実際に起こること。
薬剤師が多職種から求められること。
終末期医療で薬剤師が果たす役割。
そういった部分を、できるだけ具体的に話しています。
ありがたいことに、来年度も引き続き講義を担当させていただく予定です。
さらに2027年からは、岩手医科大学とタイアップし、病院薬剤師向けの在宅医療研修の受け入れも予定しています。
岩手ホームケア薬局では、こうした研修を実際に経験できる場として、病院薬剤師の受け入れ体制を整えていきたいと考えています。
薬学生だけでなく、病院薬剤師が地域へ出るきっかけになる場所にしたいです。
今後の展望を教えてください。
大きな目標は、全国の地方部での在宅特化型薬局を普及させることです。
岩手だけで終わるつもりはありません。
東北地方で在宅専門薬局のモデルを作り、そのノウハウを全国の地方部へ広げていきたいと考えています。
地方で在宅専門薬局を立ち上げるのは簡単ではありません。
人口、移動距離、採用、冬季の道路状況、収益構造。課題はたくさんあります。でも、だからこそ私たちが先陣を切りたい。
そして私たちだけが頑張るのではなく、地域の薬局も巻き込んでいきたいと考えています。
在宅医療は、一つの薬局だけで支え切れるものではありません。
地域全体で、薬局が在宅医療に関わる文化を作る必要があります。
私たちの薬局が先陣を切り、周囲の薬局とも協力しながら、共闘していく。
それが本当の意味で地域医療を支えることにつながると思っています。
若手薬剤師や薬学生に伝えたいことはありますか。
薬剤師の仕事は、もっと面白くできます。薬局の中だけが薬剤師の仕事ではありません。
在宅医療には、薬剤師が必要とされる場面が本当に多くあります。
患者様の生活に入り、医師と話し、看護師と連携し、ケアマネジャーと考え、ご家族に寄り添う。
薬の知識が、そのまま誰かの生活を支える力になります。
志が高い若手薬剤師には、在宅医療という選択肢を知ってほしいです。
そしていつか独立を考える薬剤師にとって、在宅専門薬局という形が一つの選択肢になることを伝えたいです。
困難だと言われる分野。不可能だと言われる地方部での在宅特化型薬局。
そこに人生を懸けて取り組むことには、大きなやりがいがあります。
安定だけを求めるなら、他にも選択肢はあります。
でも、自分の仕事で地域を変えたい。
薬剤師の価値をもっと高めたい。
本気で患者様に寄り添いたい。
そう思う薬剤師にとって、在宅医療は最高に面白いフィールドだと思います。
最後に、地域の皆様へメッセージをお願いします。
岩手ホームケア薬局は、「どこにいても、訪問薬剤が当たり前の世の中へ」という理念を掲げています。
薬局へ行けなくなったから、薬物治療が不十分になる。
地域に対応できる薬局がないから、自宅で最期まで過ごすことを諦める。そのような地域にはしたくありません。
まだまだ、最期まで患者様に寄り添える薬局は足りていません。
医師や訪問看護師、ケアマネジャー、施設職員の皆様の負担も大きいです。
私たちは、薬剤の面からその負担を少しでも減らしたい。
医療用麻薬、輸液、無菌調製、ポンプ対応、24時間365日対応。
在宅医療に必要な体制を整え、患者様が住み慣れた場所で安心して過ごせるよう支えていきます。
地方では難しい。利益化は困難。人材も足りない。
そう言われる分野だからこそ、全力を注ぎたい。
岩手ホームケア薬局は、地域の医療・介護・福祉に関わる皆様と共に、岩手県、そして東北地方の在宅医療を支える存在を目指してまいります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社マリーナメディカルグループ
代表取締役
加畑 智聡


